

初めて本格的な“ミックスプロレス撮影”に挑むことになった日、
俺―― 篠田ユウジ(32) は、緊張で手汗を拭きながら、梅田の雑踏に立っていた。
相手は小柄な女子プロレスラー、南條ミオ(158cm)。
普段はアイドル系の可愛らしい顔立ちだが、独特のキレとセンスを持つ実力派ファイター。
地下団体では“微笑みの拷問師”なんて呼ばれているらしい。
「プロと対面するのは初めてで……俺、大丈夫か?」
吐く息に自分の弱気が混じった。
M選手が元ネタになった実際のShuji体験談と同じく、
今日行うのは 事前打ち合わせ → シャワー → 軽いスパー → 本番撮影 という流れ。
しかし、相手は本職のプロレスラー。
素人である俺が足を引っ張らないか不安でたまらなかった。
ホテルのフロント前で時間を確認していると、
背後から落ち着いた声がした。
「篠田さん、ですよね?」
振り返ると、フード付きのパーカー姿の小柄な女性。
だが、隠しきれない“格闘家の立ち姿”がそこにはあった。
南條ミオだ。
「今日はよろしくお願いします! すっごく楽しみにしていましたよ」
彼女は満面の笑みで頭を下げたが、次の瞬間、俺のカバンを覗き込み、
「事前に送ってくださった台本、お持ちです?」
と確認してくる。
「あ、はい。メールのPDFを……」
「プリント、してます?」
「え…いや、スマホに」
するとミオはクスっと笑った。
「大丈夫。私、ちゃんとプリントしてきましたから」
彼女が出した紙には、俺の台本にびっしりとメモ書き。
それも、“ただの打撃や技の案”ではない。
『このタイミングで軽く間を入れると観客(カメラ)の没入感が増す』
『彼の息が上がったところで三角絞めを提案』
『ここを××すれば、もっとドラマチックになります』
俺は息を飲んだ。
「プロって……すげぇ……」
「お客さんに楽しんでもらえるのが一番ですからね!」
そう笑う彼女は、自信に満ちていた。
部屋に入ると、まずはシャワーで身体を清潔にしておくのがルールだ。
だが、ここからがShuji体験談の象徴的ポイント――
“対面でのシャワー打ち合わせ” だ。
バスルームに並んで立つ。
カメラなし、スタッフなし。
この2人きりの空間こそが、本当の準備時間なのだ。
ミオはシャワーを浴びながら、プリントを濡れないように指先でつまみつつ言った。
「篠田さん、関節技、どこまで耐えられます?」
「えーと…痛みに弱いほうだと思います」
「なら、痛みを“怖くない方向”に変えましょうね」
「…怖くない方向?」
ミオは顔を上げ、シャワーの湯気越しに俺を見る。
「痛みと快感って、紙一重じゃないですか。
耐えるだけじゃなく、気持ちよさも混ぜるんです。
じゃないと、表情が固くなるから。」
その言葉に、俺は身体中の血が一気に熱くなるのを感じた。
「たとえば、私の太ももで挟む技……
普通は苦しいんですけど、
呼吸を合わせると、ちょっと気持ちよくなるんですよ」
「や、やってみます……」
「うん。今日はそういう“合わせ方”の練習から始めましょう」
プロレス技という“格闘”の話なのに、
会話はどこか柔らかく、妙に心に刺さった。
シャワーを終えると、ミオはトレーニングウェアに着替え、
俺をベッドの横のスペースに呼んだ。
まずはレスリングの構え――
といきなり、ミオの腕がすっと俺の首に絡む。
「これ、スタンディングのフロントチョーク。
苦しいけど、喉じゃなくて胸で受ければ大丈夫ですよ」
言われるままに姿勢を変えると、
さっきまで締まっていた喉がふっと軽くなる。
「そう、それ。それが呼吸の“合わせ”です」
続いて、いきなり身体が宙に浮く。
「えっ」
ベッドの上に軽く投げられた俺。
だが痛くない。
受け身のタイミングをミオが完全にコントロールしてくれていた。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です……!」
「じゃあ、次は三角いきますね~」
まるでジョークのように軽い声で言ったかと思うと、
次の瞬間、俺の視界はミオの太ももでいっぱいになった。
柔らかいのに、強い。
苦しいのに、どこか気持ちいい。
「はい、呼吸合わせて。吸って……吐いて……」
その声に誘われるように息を整えると、
身体の感覚がひっくり返るような奇妙な心地よさに包まれた。
「あ、そうそう! 今の顔、すごくいい。
本番でも、そのまま出してくれたら嬉しいです」
プロのレスラーは、技だけではなく、
相手の感情まで導いてくれるのか――
俺は完全に魅了されていた。
休憩の合間、ミオはタオルで額を拭きながら言った。
「篠田さん、今日のテーマって
“魅せるミックスプロレス”ですよね?」
「あ、はい」
「なら、私の動きは“痛いけど美しい”を意識します。
篠田さんは“苦しいけど諦めない”表情を意識してください」
「なるほど……」
「あと、もし苦しくて耐えられなくなったら、
手をポンって叩いてください。“タップ”の合図です。
それがあれば、絶対に怪我はさせません」
ミオは真剣な目を向けてきた。
「私、プロですから。
篠田さんを怪我させたら終わりなんですよ。
だから、本当に安心して任せてくださいね」
その表情は、
優しさと強さが同居していた。
最後に、クライマックスの技を一緒に組み立てた。
「最後は、どんな技が理想ですか?」
「えっと……卍固めとか……」
ミオは少し照れたように笑い、
「私の卍、強いですよ?」
「そ、それを…お願いします」
「了解。じゃあ、本番では“本気の卍”でいきますね」
不思議と怖くなかった。
むしろ“彼女の本気”が楽しみだった。
全ての流れを作り終えたあと、
ミオは俺にペットボトルを渡しながら言った。
「今日は、いっぱい楽しみましょうね」
その笑顔は、
格闘家というより、
舞台に立つ女優のようだった。
俺は深く息を吸って答えた。
「こちらこそ……よろしくお願いします」
ホテルの薄明かりの中、
俺たちは本番撮影に向けて、
静かに拳を合わせた。
――これが、
俺と南條ミオの、
“最初で最後のホテル打ち合わせ”のすべてだった。
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