第2話:御堂涼香、無音の圧倒劇

第2話:御堂涼香、無音の圧倒劇

控室の空気は重く、沈んだままだった。


高木は誰とも目を合わせられない。誰かが何か言えば、少しは救われる気もしたが、誰もその役を担おうとしない。


そのとき、土俵の外から声が響いた。


「次、剛塾側――川尻大地。華ノ峰側――御堂涼香!」


「……え? 御堂?」


数人が、同時に顔を上げた。


その名は、華ノ峰の中でも異質な存在として知られていた。


●登場人物:御堂 涼香(みどう すずか)
24歳。172cm・80kg。


華ノ峰の中でも、体格・実力ともに別格とされる無敗の女力士。


静かで感情をあまり表に出さないが、「勝利は当然」という意識が滲むような、冷たい目をしている。


川尻は、塾内でも比較的体格がある方だった。163cm・58kg。


負け続ける仲間を見て、「俺だけは違う」と言っていた男だ。


しかし、土俵上に立った瞬間、その自信はわずか数秒で崩れた。


御堂涼香は、登場からして異様だった。


無言。


笑顔も気迫も見せない。


ただ土俵に上がると、まっすぐ川尻を見据える。


その視線は、まるで“すでに勝利している相手”を見るようだった。


「はっけよい――のこった!」


開始の合図と同時に、川尻は前に出た。


必死の押し。全力だった。


だが、涼香はほとんど動かない。


膝を落とし、踏ん張る。まるで大木のように。


(効いてない…?)


焦る川尻。その隙を逃さず、涼香が一歩踏み込んだ。


ゴンッ――!


ぶつかる音が、木霊する。


次の瞬間、川尻の体が空を舞った。


土俵の端から1メートルは飛ばされた。


背中から落ち、動けない。


ざわめく観客。


「勝負あり、白方・御堂涼香!」

場内に、静かな拍手が響く。


だが男子控室では、その拍手は“断罪”の音にしか聞こえなかった。


控室・剛塾
川尻が戻ってきた。肩で息をしながら、顔を伏せている。


「……立てなかった。何もできなかった……」


その呟きが、塾内に沈殿していた“かすかな希望”すらかき消した。


誰も言葉を返せない。


御堂涼香。あれはもう、別格だった。


その静けさと、容赦のなさ。


戦いというより、“処理”だった。


高木は、思わず口の中を噛んでいた。


(今度、あれと……俺たちがまた、戦うのか?)


想像したくもなかった。


自分の体が、涼香に吹き飛ばされる姿。


そのあとに残る“無力感”と、“情けなさ”。


もはや「稽古」「勝負」という言葉が、茶番に思えるほどだった。


そして――その場の誰もが、同じ結論に至りつつあった。


(もう、無理かもしれない)