第3話:名指しされた男、柏原勇

第3話:名指しされた男、柏原勇

登場人物(新規)
■ 柏原 勇(かしわばら・いさむ)
28歳・会社員。身長162cm/体重57kg。


剛塾に入って3か月。対人戦は未経験。元来、争いが苦手でおとなしい性格。


内心、入塾を少し後悔しているが、辞められずにいる。


■ 宝条 まひる(ほうじょう・まひる)
23歳。身長168cm/体重72kg。


華ノ峰所属。“陽気系パワーファイター”。


普段は明るく、誰にでもフレンドリーだが、試合になると性格が豹変するタイプ。


試合前の笑顔と、試合中の“冷徹な目”のギャップで、敗北した男子たちに強烈なトラウマを残してきた。


本編:第3話「名指しされた男、柏原勇」
「次、剛塾――柏原勇!」


その瞬間、時間が止まったように感じた。


「えっ……?」


控室の片隅で体育座りしていた柏原が、顔を上げる。


指名された?


まさか、自分が――?


だが、掲示板にはしっかりと書かれていた。


【第三試合:柏原勇 vs 宝条まひる】


「……冗談、だよな……」


ぼそりとこぼしたが、周囲は無言。


他の塾生たちは誰も目を合わせようとしない。


みな、柏原の名前が呼ばれなくて“ホッとしている”のが、露骨だった。


(逃げられない……)


脚が震えるのを感じながら、柏原は立ち上がった。


土俵上
陽の光が差し込む土俵中央に、すでに立っている女性――宝条まひる。


ニコニコと笑っている。


明るく、無邪気で、親しみやすい雰囲気。


「よろしくね~! 怖がらなくていいからさっ♪」


柏原は、かろうじてうなずいた。


(……でも、この人、本当に“女力士”なのか?)


表情は柔らかいが、身体つきは確かに分厚い。


太腿も肩も、まるでアスリートそのもの。


だが、話し方はまるでキャンパスのサークルのようなノリだった。


「じゃ、やろっか♪」


試合開始
「はっけよい、のこった!」


柏原は慎重に構えた。腰を落とし、突進はしない。


先に動けばやられる――それだけは先輩たちから学んでいた。


まひるは、その場から動かない。


ただ、にこにこと笑ったまま、柏原を見つめている。


(近づけない……)


その時だった。


「遅いよ~♪」


まひるが突然、爆発的な踏み込みで距離を詰めてきた。


「うわっ!」


柏原は思わず尻もちをつく。


そのまま、肩を取られて転がされた。


「えいっ♪」


軽い掛け声とは裏腹に、まひるの体重が一気にのしかかる。


ドンッ――!


土俵の地面が震えたような音が響いた。


柏原の体は、完全に押し潰されて動かない。


「はい、終わりっ♪」


審判が声を上げるまでもなく、明らかな勝敗だった。


「勝負あり! 白方、宝条まひる!」

柏原は、土俵の上でしばらく動けなかった。


控室に戻って
控室に戻った柏原は、顔色を失っていた。


まるで幽霊を見たような目をしている。


「やばい……やばい……あの人、笑ってるのに……何も感じてない顔してた……」


誰も声をかけられない。


陽気に見えたあの女力士が、いざ試合となれば**“人を機械的に処理する”ような動きに変わった**ことを、全員が理解していた。


高木が小声で言った。


「……やっぱり、勝てないのか、俺たち……」


控室は、再び静まり返った。