
時代を風靡した、立野記代&山崎五紀のタッグ
JBエンジェルス。
女子プロレスの魅力がすべて詰まった、2人の紹介
こんな彼女たちとのプロレス対戦。
期待でぞくぞくしてしまいます。
スポットライトが落ちるリング中央。
その輝きの中に立つのは、立野記代。164cm・75kgの肉体から放たれる存在感は、まさに“全女の聖子ちゃん”と呼ばれた当時そのまま。長与千種やダンプ松本と肩を並べて闘ってきた経験値、そして“ジャンピング・ボム・エンジェルス”として世界を制した実績が、目の前の素人男子――新藤進にとって、あまりに重い現実だった。
ゴングと同時に新藤は勢いよく突っ込む。必死さだけは伝わるが、その攻めはプロの目には幼稚にしか映らない。立野は軽くかわすと、鋭いドロップキックを胸板に突き刺す。
「ぐはっ!」
新藤はロープに吹き飛ばされ、すでに息が乱れる。
立野は観客に手を振りながら、華やかにリングを回る。アイドルレスラーとしての輝きと、戦う女の鋭さ。その両方を兼ね備えた姿に、会場は割れんばかりの拍手を送る。
新藤が立ち上がろうとした瞬間、立野は飛び込むようにフライング・ネックブリーカードロップ。首筋に激痛が走り、新藤はうずくまる。
「まだまだこれからよ!」
立野は観客に声を張りながら、新藤を強引に持ち上げる。プロの体幹で相手を完全にコントロールし、ジャーマン・スープレックスの体勢に。
腰を絞り上げ、強烈なブリッジ――
「ドーン!」とリングが揺れ、新藤の体が叩きつけられた。
立野はフォールにはいかない。あくまで“女子プロの恐ろしさ”を見せつけるように、さらに畳みかける。ロープに走ってのジャンピング・ニー・バット。膝が新藤の胸を突き抜け、男子の体は跳ね上がるように崩れ落ちる。
観客は総立ち。
「女子が男子を圧倒する」――その構図こそ、80年代女子プロの真骨頂だった。
新藤は汗と涙にまみれながら必死に立とうとするが、その足元はすでに覚束ない。立野記代の猛攻はまだ序盤にすぎなかった。
リング中央でよろめく新藤。
その姿を見据え、立野記代は鋭い眼差しを向けた。かつてフジテレビのディレクターに「お前には無理」と言われながらも勝利をつかみ、10万円をその手にした根性のレスラー。そんな彼女にとって、素人男子ひとりをねじ伏せることは、あまりにも容易なミッションだった。
「さぁ、まだやれるの?」
挑発するように、立野は軽やかにロープへ走る。反動をつけて飛び上がり、空中で体をひねりながらドロップキックを再び胸板に直撃させる。
新藤の体がマットに沈む。
観客の声援に手を振りながら、立野は次の“仕上げ”を予告するように両腕を広げる。
新藤は必死に立ち上がるが、その顔は苦痛に歪み、足も震えていた。そこへ――
ロメロ・スペシャル。
立野が背中から相手の両足を取って反らし、強靭な太ももと腰で新藤の体を吊り上げる。
「うわぁぁぁっ!」
背筋に鋭い痛みが走り、顔を真っ赤にして絶叫する新藤。会場のどよめきが響く。女子の力で男子が空中に固定され、なすすべもなく悲鳴を上げるその光景は、まさに昭和プロレスの象徴だった。
しかし立野はフォールに移らず、観客にさらなる見せ場を用意する。
「これで終わりよ!」
再び新藤をロープへと振り、返ってきたところに飛び付き回転エビ固め!
鮮やかな技の流れに、場内から大歓声。新藤の両肩はマットにしっかりと押さえつけられ――
「ワン!ツー!スリー!」
ゴングが鳴り響いた。
勝者:立野記代
完膚なきまでの圧勝。
立野は笑顔でリングを駆け回り、観客に手を振る。アイドルレスラーらしい華やかさと、男子を圧倒する強さ。その両立が、彼女を「ジャンピング・ボム・エンジェルス」の象徴へと押し上げた。
マットに倒れ込む新藤。
立野の余裕ある立ち姿との対比が、女子プロの圧倒的支配を鮮やかに浮かび上がらせていた。
リングに登場したのは――ジャンピング・ボム・エンジェルスのもう一人、山崎五紀。
165cm・62kg、立野よりもスリムながら、切れ味鋭いスピードとテクニックを武器にしたファイターだ。髪を後ろにかき上げながら、真剣な眼差しで新藤を見据える。
観客の声援に背中を押されるようにゴングが鳴る。
「カーン!」
序盤から山崎は素早い動きを見せる。軽やかにロープへ走り、跳ね返ってくるや――
ドロップキック!
新藤の胸を鋭く打ち抜き、そのまま回転して起き上がる。
倒れ込む新藤を尻目に、観客席からは「やっぱり速い!」と歓声が飛ぶ。
新藤も必死に立ち上がり、突進を試みる。だが、山崎の反応はさらに早い。
すかさずカウンターでフライング・ネックブリーカー・ドロップ。
首をがっちり捕らえ、体を反らせながら叩きつける!
「ぐはっ!」
マットに沈む新藤。首筋に走る痛みで身動きが取れない。
さらに山崎は素早く起き上がり、観客にアピール。両腕を広げ、リングを駆け回る。まるでアイドルのような振る舞いに、昭和のおじさんファンは声を枯らして熱狂していた。
中盤、新藤が渾身の力で立ち上がり、突っ込む。
だが山崎は鮮やかにかわし――背後からジャーマン・スープレックス!
ブリッジを効かせて反り投げるそのフォームは、男子顔負けの美しさ。
「うわぁぁぁ!」
新藤の体が宙を舞い、背中からマットに叩きつけられる。
観客は総立ち。
「山崎!」「五紀ちゃん!」
声援はもはや歓喜の渦。
新藤はすでにダメージが蓄積し、動きも鈍い。だが試合はまだ前半。山崎はトドメを急がず、さらなる見せ場を作るべく、新藤を起こしてロープへと振り、次の大技を狙う――。
ロープに振られた新藤。反動で戻ってくる瞬間、山崎は華麗にジャンプ――
ジャンピング・ニー・バット!
鋭い膝蹴りが新藤の胸板に突き刺さる。
「ぐっはぁっ!」
苦悶の声を上げながら、背中からマットに沈む新藤。
観客席は「決まったーっ!」と大歓声。
だが、山崎は勝負を急がない。両手を掲げ、再びアイドルのように観客へ手を振ると、再度素早く立ち上がり――追撃開始。
倒れ込む新藤の腕を掴み、ロメロ・スペシャルに移行。
背中をマットに向けたまま両腕両足を極め、反り上げて宙吊りにする!
新藤の体は弓のように反り返り、顔は苦痛に歪む。
「う、うわぁぁぁ!」
観客はその美しいフォームに「おぉー!」とどよめく。
耐えきれず落とされる新藤。呼吸も荒く、立ち上がることすらままならない。
そこへ山崎は容赦なく、飛び付き回転エビ固め!
クルリと回転し、華麗に押さえ込む姿はまるで舞踊のよう。
レフェリーのカウントが入る。
「ワン!…ツー!」
しかし、山崎はフォールを解き、観客をさらに盛り上げようと新藤を引き起こす。
――完全に「見せる」プロレス。昭和のリングでしか味わえない高揚感。
最後はロープを駆け上がり――
ミサイルキック!
飛び蹴りが新藤の胸に炸裂し、再び大の字に沈む。
そのまま山崎がカバー。
「ワン!ツー!スリー!」
ゴングが鳴る。
「カーン!」
第2戦も圧倒的な女子プロの勝利。
スリムながらスピードと華を兼ね備えた山崎の前に、新藤はなす術なく沈んだ。
リングに立つ山崎は汗を光らせながら、勝利の笑みを浮かべる。観客は大喝采。
――これが「ジャンピング・ボム・エンジェルス」の片翼の強さ。
ゴングが鳴ると同時に、リング中央へと歩み寄るのは――
ジャンピング・ボム・エンジェルス、立野記代と山崎五紀。
2人が揃うだけで、場内の空気は一変した。
昭和プロレス黄金期のアイドルタッグ、その華やかさと威圧感に観客は酔いしれる。
対角のコーナーで震える新藤。
すでに立野にも山崎にも敗北を喫し、満身創痍。
だが、今度は「2人同時」という絶望的状況。
観客席からは「頑張れー!」の声援が飛ぶが、それは同情混じりのものに過ぎない。
◆
ゴング直後、先に仕掛けたのは山崎。
素早くロープへ走り込み、返ってきた勢いでドロップキック!
新藤の胸に命中し、その身体は無様にマットに叩きつけられる。
すかさず立野が走り込み、ジャーマン・スープレックス!
強靭な太腿と腰のバネを生かして、弧を描くように後方へ投げ飛ばす!
「ぐわぁぁっ!」
新藤の背中が豪快にマットへ突き刺さり、場内は大歓声に包まれる。
だが、2人の攻めはまだ始まったばかり。
立野がダウンする新藤を引き起こせば、山崎が待ち構え――
フライング・ネックブリーカー・ドロップ!
首筋に衝撃が走り、新藤は目を白黒させながら崩れ落ちる。
観客席はすでに大興奮。
「すげぇ…これがボムエンの同時攻撃か!」
「新藤じゃ持たない、完全におもちゃにされてる!」
立野と山崎はリング中央でアイコンタクトを交わす。
次は――「同時飛び技」。
2人はロープへ走り、呼吸を合わせてジャンプ!
空中を舞い、ほぼ同時にダブル・ドロップキック!
新藤は成す術なく吹き飛ばされ、リングの端まで転がる。
その姿に観客はどよめき、昭和のアイドルタッグの凄まじさを改めて目撃することとなった。
リング上で転がる新藤。
すでに意識は朦朧、足元はふらつき、今にも試合が止められてもおかしくない。
だが――ボム・エンジェルスはまだ満足していない。
観客を沸かせ、女子プロの強さを見せつけるために「魅せる攻め」をさらに繰り出す。
まずは立野が新藤を引き起こし、正面から組み合う。
腰を低く落とし、ロメロ・スペシャルを狙う!
新藤の両腕をとらえ、その長い脚力で持ち上げると――
背中を反らし、逆エビのように吊り上げる!
「う、うわぁぁぁっ!」
新藤の身体は宙に反り上がり、苦痛の絶叫が会場に響く。
客席からは大拍手と歓声。「のりよちゃん!」「エンジェルス!」の声援が止まらない。
山崎はそこに加勢。ロープへ駆け、助走をつけて――
ジャンピング・ニー・バットを新藤の腹部に一撃!
吊り上げられたまま直撃を食らった新藤は、もはや悲鳴すら声にならない。
技を解かれた新藤は、四つん這いのまま必死に逃げようとする。
しかし、2人の女王はその背中を逃さない。
立野が正面、山崎が背後へ――まさに挟み撃ち。
「せーのっ!」
2人が同時に走り込み、ダブル・ローリング・ソバット!
正面と背後からの同時ソバットは、避けようがなく新藤の身体を挟み撃ちにする。
「ぐっはぁぁぁっ!」
壮絶な衝撃で宙に舞い、仰向けに大の字でダウン。
完全に意識を飛ばした新藤を、山崎が軽々とフォール。
立野は余裕の笑みでカウントを数える。
「ワン! …ツー! …スリー!」
試合終了――。
会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれる。
観客は知っていた。これは単なる“男子対女子”の試合ではない。
昭和のリングを駆け抜けたアイドルタッグの実力を、改めて体感させられたのだ。
新藤はセコンドに抱えられ、ヨロヨロと退場。
対照的に、立野と山崎はリング中央で華麗にポーズを決め、拍手とフラッシュを独占する。
――“ジャンピング・ボム・エンジェルス”の伝説は、やはり揺るぎない。
その強さと華やかさの前に、素人男子の抵抗など、無意味であった。