『榊原澪に敗れた夜』

『榊原澪に敗れた夜』




あらすじ


県大会でエース・長谷川咲良が無名のクラブ所属選手、榊原澪に敗れた。


名門レスリング部に所属しながら、どこか本気になりきれず「中の中」に甘んじていた藤堂迅は、その敗北を偶然や環境の差として片付けようとする。しかし澪の何気ない一言に激昂し、放課後、彼女の道場で直接対決を挑む。


だが結果は完敗だった。


力任せの衝動はすべて見切られ、背後を奪われ、組み伏せられ、構造の差を突きつけられる。そこに男女差も、部活とクラブの差も存在しなかった。ただ純粋な実力差だけがあった。


その夜、迅は眠れない。


怒りは燃え上がらず、代わりに静かな自己嫌悪が胸を満たす。
自分は強くなりたかったのではない。
負けない場所に立ちたかっただけだ。


環境のせいにし、本気にならず、逃げ道を残してきた自分。
澪に敗れたのは試合ではなく、言い訳そのものだったと気づく。


崩れた前提の中で、迅は初めて選択を迫られる。
このまま“中の中”で終わるか。
それとも、逃げ道のない場所に立つか。


敗北の夜を越えた先にあるのは、屈辱か、再生か。


これは、女に負けた物語ではない。
言い訳を失った少年が、本気と向き合うまでの物語である。

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